【第17回】離職させない方法

もし、あなたの美容室の離職者が多くて悩んでいるのなら、スタッフの個性を尊重し過ぎている可能性があります。「スタッフ一人一人の個性を尊重する」「スタッフがやりたいことを大事に」など、「個性」をウリにする美容室があります。

もちろん、スタッフ一人ひとりに個性があり、それを尊重することは素晴らしいと思います。しかし、美容室は組織で動くものです。美容室のコンセプトやウリ、スタッフ間ルールなど。

個性を大切にしたうえで、一定の共通ルール(制約)を持たないと、組織として成り立ちません。例えば、 実際に私の経営していた美容室では…● スタッフが使いたい薬剤を「自由」に選択できる。● スタッフが希望するメニューを「自由」に選択できる。● スタッフの意見を「自由」に言える空間、雰囲気。という具合に、スタッフに「自由」を与え、「個性」をウリにしていました。全てが自由のため、作業の統一もされていません。

この一見自由で素晴らしく見える美容室で何が起こったか?というと、慢性的な長時間労動と売上の伸び悩みです。スタッフからしたら明確な終業ルールがないため「より長時間働いた人が偉い」的な謎の同調圧力が社内に蔓延し、たいしてやることがなくてもダラダラと働くフリをしている。

もちろん、そんな無駄な時間に生産性はありませんので、掛けた労働時間に見合うだけの売り上げが上がるわけもなくスタッフがどんなに頑張っても売り上げが伸びない悪循環に陥ってしまいました。

当然ながら、会社の利益率も悪化。スタッフも会社も双方が消耗し合う地獄のような状態で、薄給+長時間労働を理由に離職者が絶えませんでした。行き過ぎたスタッフの個性尊重は、会社全体にとってマイナスになります。組織で営利活動をしている以上、一定の生産性を維持できるルールが必要です。

「スタッフの成長」を大事にし過ぎている。「スタッフを大事に」「スタッフの成長のために」「スタッフが一人で売れるように」と考え、スタッフ「個人の成長」を大事にし過ぎている美容室も離職が止まりません。なぜなら、個人の成長の先には、独立が待っているからです。スタッフが自分で集客できるようになり、売れるようになると、ほぼ100%独立します。

当然ですよね。あなたの美容室に頼らなくても一人で全てやれてしまうのですから。さらに、何もかも自分でできる優秀なスタッフは、
周りのスタッフからの信頼も厚いです。だから独立する際に、他のスタッフを根こそぎ引き抜いていく、なんてことも日常茶飯事です。

集団離職は、会社に致命的な損失をもたらします。会社として成長するために、スタッフ個人が成長するのは大事です。しかし、個人の成長を第一に考えすぎ、それに依存するようになってはいけません。離職率を低く抑えたいのであれば、スタッフに経営者の価値観を押し付けるのではなく、作られたルールを元に、一定の心の距離を保って対応することが理想です。

価値観を押し付けずにスタッフと良好な人間関係を維持するためのルール作りが必要です。経営者がスタッフにできもしない約束をすることで、信頼関係を失うことがあります。

例えば、経営者が「お給料を上げてあげたい」など、良かれと思って出来もしないことをスタッフに言ったとします。そこで、スタッフが期待してしまい「あの件はどうなりましたか?」と尋ねられた時に答えてあげられない。そこで失った信頼関係を取り戻すことは難しく、結果的に離職につながります。

このようなトラブルが起こる原因は、経営者がスタッフに肩入れし、距離感を間違えたことにあります。必要な時にスタッフに日々の業務を気遣ったり、労ったりすることは大事ですが、スタッフに余計な気遣いをするのは止めましょう。トラブルの元になります。

そうならないために、一定の「心の距離」を保って対応することが理想です。スタッフに経営者の価値観を押し付ける。経営者が持っている価値観をスタッフに押し付けすぎることが、信頼関係を失うきっかけになります。

例えば、スタッフを熱心に育てる経営者ほど「美容師ってこんなに素晴らしい仕事なのだよ!」「スタッフを絶対に幸せにするのだ!」など、こうした価値観を押し付けたがります。

確かに、あなたにとって美容師は素晴らしい仕事なのかもしれません。しかし、その感情をスタッフも持ちうるかどうかは、スタッフ個人の問題です。スタッフの幸せを考えるのも同様で、もしあなたの美容室が離職で悩んでいるのなら、徹底的に改善してください。